5月5日は毎年薬師寺玄奘三蔵会大祭の受付の御奉仕をさせていただいている。
全国から2,500人の人が参拝され、
玄奘三蔵の苦難の旅を金堂前の舞台で雅楽演奏家の東儀秀樹さんが演じられた。
今日はもう一人素晴らしい人がゲストにこられていた。
故高田好胤さんが奥さんをパリで引き合わせ仲人された細川護煕元首相だ。
趣旨は法相宗の祖の慈恩大師にちなんで学び舎の慈恩殿の60壁に壁画を描く下絵の公開のためであった。
2012年の秋に薬師寺山田管主より依頼を受け2017年に正面の壁に、
2019年に完成の予定で5年の歳月をかけられるそうだ。
東京の国立博物館で資料を丹念に調べられて、今回の下絵公開だった。
画家は普通は下絵を見せないそうですが、
いろんな方のご意見を伺いたいと謙虚におっしゃられていたのが心に響いた。
その会場で「跡なき工夫」(削ぎ落とした生き方)という細川護煕書かれた本を買って読ませてもらった。
その中で印象的だったのは「慎独の工夫」と題した箇所だ。
西郷隆盛さんの「西郷南洲遺訓」山田済斉(せいさい)著、岩波文庫を四歳のときに、
父から渡された最初の本だったそうだ。
政治のリーダーとして執務室に「敬天」の書が掲げられていたのもうなずける。
南洲の「至誠の域は、まず慎独より手を下すべし。閑居即慎独の場所なり」
の元の文章が紹介されていた。
総理大臣のときの決断や、いろんな意見を聞くために一人で自問自答されたのがうかがえる箇所だ。
「慎独の工夫は、當(まさ)に身稠人廣座の中に在るが如く一般なるべし。
應酬の工夫は、當に閑居独処の時の如く一般なるべし」
意味=一人慎む工夫は大勢の人が集まる場所の中に居るようなつもり行い、
人とやり取りの工夫は一人閑居しているようなつもりで行うがよい。
西郷さんは奄美大島潜居、徳島、沖永良部島へと遠流と幽居された体験に基づく。
西郷さんの人柄を「謙虚、質素、無私、至誠、寡黙」を挙げられ、御自身も目指された。
この年齢で絵を描くのは集中力もだが、同じ姿勢を維持するので大変な作業らしいが、
一心不乱に描かれている様子が眼に浮かんで来る文章運びだった。
私のような凡夫は論語にある「小人閑居すれば不善をなす」で、
自分と自分が向き合い身体も心も鍛える善行ができてるかといえば逆だ。
流れるままに時間を空費しているのを反省する次第だ。
「欲なければ一切足る」の紙面には、
子供と戯れる良寛さんの「独と貧と無言」に向き合う修行のすさまじさも描かれていた。
細川さんの最近の言動を見ていて、
眼に見えないが何か思いがあってのことだと感じた。
皆さんは慎独を楽しんでおられますか?