昭和50年1月
「新しい人間道の提唱」
人間には、万物の王者としての偉大な天命がある。
かかる天命の自覚にたっていっさいのものを支配活用しつつ、
よりよき共同生活を生み出す道が、すなわち人間道である。
人間道は、人間をして真に人間たらしめ、万物をして真に万物たらしめる道である。
それは、人間万物いっさいをあるがままにみとめ、容認するところからはじまる。
すなわち、人も物も森羅万象すべては、自然の摂理によって存在しているものであって、
一人一物たりともこれを否認し、排除してはならない。そこに人間道の基がある。
そのあるがままの容認の上にたって、いっさいのものの天与の使命、特質を見極めつつ、
自然の理法に即して適切な処置、処遇を行い、すべてを生かしていくところに人間道の本義がある。
この処置、処遇をあやまたず進めていくことこそ、王者たる人間共通の尊い責務である。
かかる人間道は、豊かな礼の精神と衆知に基づくことによってはじめて、円滑のより正しく実現される。
すなわち、つねに礼の精神に根ざして衆知を活かしつつ、いっさいを容認し、
適切な処遇を行っていくところから、
万人万物の共存共栄の姿が共同生活の各面におのずと生み出されてくるのである。
政治、経済、教育、文化その他、物心両面にわたる人間の諸活動はすべて、
この人間道に基づいて力強く実践して行かなければならない。
そこから、いっさいのものが、そのときどきに応じ、そのところを得て、
すべてが調和の基にいかされ、共同生活全体の発展と向上が日に新たに創生されるのである。
まさに人間道こそ人間の偉大な天命を如実に発揮される大道である。
ここに新しい人間道の提唱するゆえんである。
松下幸之助