アダム・スミスの世界観

投稿日:2020年7月28日 更新日:

アダム・スミス(1723~1790年)は、18世紀のイギリスの産業革命の立役者として、生産技術の根本的革命を起こし、中世の神から人間を解放したことでも有名な思想家でもあり、経済学者でもあった。
私たちが一番知っている『国富論』の中にある「分業論」は生産を分業することによって物質的にたくさん作れ、豊かになり、さらに資本を蓄積することが繁栄だという。
彼は分業が進むために市場ではフェアプレーな精神が必要で、社会の全ての人が見知らぬ他人の労働で生活を支えていくことができ、商業社会が実現される。
人間の本性は利己心にあることが前提で、みんなが一生懸命にやればやるほど「見えざる手」によって公平化され繁栄すると断言する。「見えざる手」=「公平な観察者」ということになるのであるが、この 『国富論』の前に彼は『道徳感情論』を書いている。
そこには社会秩序は感情に基づく道徳原理によって保たれているという思想なのだ。
人間は利己的だが、人間の本性の中には他人に関心を持つ「共感」の感情があり、その共感感情によって社会秩序と繁栄が導かれていると説いた。

古典経済学の祖であるが、1929年の世界大恐慌で現れたケインズはこの状況になったのはスミスのせいだと批判し、有効需要を作り出すことが重要だと政府がダムの建設などの大掛かりな公共事業で需要を生み出し、経済の活性化をする重要性を説いた。
ニクソンショック以前の日本の政府の考え方はケインズ政策で、大きな政府によって経済を拡大してきたのも事実だ。

共感=他者の感情の状態や行為の意味を共有する精神機能と定義され、他者の視点に立ち、他者と文脈を共有すること。
人間関係の本質は共感にあり、人間力の本質は共感力にある。
これは脳の「ミラーニューロン」という「鏡のように相手の行動を自分にうつす神経細胞」の事で、1990年代にイタリアのパルマ大学のジャコモ・リゾラッティーの研究チームがサルの実験で発見した。
他者の動作を見ているときに、笑う、怒るなどの感情を抱いているかのように、感情システムが活性化する自分と他者が違いを超えて主客一体の世界になる。人間は「共感の生き物」とも言える。
もっと面白いのは「共感」が「利他行」を産むことである。チンパンジーの実験で、苦境に立っている仲間を見ると抱擁したり、傷を調べたりする行為をしたのである。

アダム・スミスは経済学の古典だが、私が思うには「見えざる手」とは外にあるものでなく、人間が持っている心の「良心」のことを言っているように感じる。
常識は個々人の体験と知識によって違うが、良識は人間に共通する共感力である。
この共感力は、川で溺れている人を無意識に助ける利他行をする良心であるとスミスは見抜いていたに違いない。
人間は利己的存在だが、その奥にある魂は「共感」であり「利他行」することで手を保存してきた。要するに共感・利他行は繁栄の原理だ。
子供が親の言葉をまねて話すようになり、同じ言葉を繰り返す。
そのうちに、賢くなって「行く」というと「行った」と答えるようになる。共感から自分を外から見る見識が生まれるのである。

利他行こそが繁栄の根本だとアダム・スミスが教えてくれている。

皆さんはアダム・スミスの「共感」から生まれる「利他行」を実行すると繁栄すると思いますか?

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